松重豊のNHKドラマにおける功績は『どうする家康』だけに留まりません。過去4作の大河ドラマにおいても、時代背景や作品のトーンに合わせた見事なアジャストを見せています。
猛将・吉川元春(『毛利元就』)で見せた野性味と殺陣の迫力
大河ドラマ初出演となった1997年の『毛利元就』では、名将・元就の次男であり「生涯無敗」と称された猛将・吉川元春を演じました。身長188cmという恵まれた体躯から繰り出される太刀筋と、戦場を駆ける豪快な雄叫びは、松重豊のフィジカルの強さを全国に知らしめる契機となりました。冷静沈着な兄・小早川隆景(恵俊彰)との対比も見事で、戦国兄弟の絆を鮮明に描き出しました。
国際商人・謝国明(『北条時宗』)が醸し出した異端の知性
2001年の『北条時宗』で演じた謝国明は、宋から博多へ渡り巨万の富を築いた実在の豪商です。蒙古襲来前夜の極度の緊張感のなか、日本と大陸を行き来しながら権力者たちの思惑を操るフィクサーを演じました。無国籍で謎めいた微笑みと、達観した物言いは、単なる時代劇の枠に収まらないスケール感を作品にもたらしました。
厳格な父・山本権八(『八重の桜』)が示した武士の矜持と家族愛
2013年『八重の桜』では、綾瀬はるか演じる主人公・新島八重の厳格な父・山本権八役を務めました。会津藩の砲術師範として古き良き武士道を重んじ、鉄砲に夢中になる八重を厳しく叱責しながらも、その才能と情熱を誰よりも誇りに思っていた父親像。会津落城の悲劇に向けて運命が暗転していくなか、家族を守るために散っていった最期の姿は、多くの視聴者の涙腺を崩壊させました。
近代日本の礎を築いた知事・東龍太郎(『いだてん』)の品格
宮藤官九郎脚本による2019年の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』では、1964年の東京オリンピック開催時の東京都知事・東龍太郎を好演しました。医師出身であり赤十字活動にも尽力した高潔な人物を、持ち前の知性と温和なトーンで表現。戦後復興とスポーツの祭典に命を燃やした男たちの群像劇を、行政のトップという視座からしっかりと下支えしました。