なぜ人間は、食べるのに困らなくなっても働き続けるのか。心理学のクラシックな知見が、この謎に対する明確な骨組みを与えてくれる。
心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求段階説」によれば、食欲や安全が満たされた人間が最終的に行き着くのは「自己実現欲求」だ。自らの潜在能力を開花させ、自分にしかできない仕事を成し遂げたいという望みである。仕事は、自らの可能性を実験し拡張するための最高の実験場なのだ。
さらに深く人間の精神性に迫ったのが、ナチスの強制収容所を生き延びた精神科医ヴィクトール・フランクルだ。彼は著書の中で、人間が困難を乗り越える原動力は「人生における意味の発見」にあると説いた。フランクルによれば、労働とは単なる作業ではなく、「他者や社会へ何かを捧げる創造的価値」を実現する手段にほかならない。私たちは働くことを通じて、己の存在理由を世界に刻み込んでいる。