宮崎駿監督がなぜ、この極めて重要な父親役に木村拓哉を選んだのか。その裏には、宮崎監督特有の直感と人物に対する鋭い眼光が存在していた。関係者の証言によれば、宮崎監督は正一という役柄について「悪びれずに自分に正直に生きている男」という像を描いていたという。世間の常識や道徳観に囚われず、自らのエゴを肯定して生きる強靭なキャラクターには、木村拓哉という人間が持つ圧倒的なスター性と存在感の強さが不可欠だったのだ。
アフレコ現場での裏話も実に興味深い。宮崎監督は木村の最初のひと声を聞いた瞬間、破顔一番「それだ!」と手を打ったという。指示を最小限に抑え、木村の感性と直感にキャラクターの動動を委ねた。複雑な演技指導を重ねるのではなく、木村自身が身にまとう「男としての華」と「生命の圧力」をそのままマイクに乗せることが、監督の真の狙いだったと言える。