種明かしをすれば、縁日などで広く使われている一般的なシロップの主成分は、どれも果糖ブドウ糖液糖や砂糖水であり、味付けの基本となる「甘み」や「酸味」のベースはまったく同じである。それにもかかわらず、私たちがイチゴを「イチゴ味」、メロンを「メロン味」と確信して疑わないのはなぜか。
この現象の鍵を握るのが、認知心理学や味覚心理学の分野で研究が進む「クロスモーダル知覚(多感覚統合)」という脳の仕組みだ。脳科学の第一人者として知られる自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介名誉教授らの解説によれば、人間が「味」として認識している感覚の大部分は、舌の味蕾から送られる情報だけでなく、目からの視覚情報や鼻からの嗅覚情報が複合的に脳内で統合された結果である。
視覚で「赤い」と認識し、嗅覚で「甘いイチゴの香り」を捉えた瞬間、脳は過去の記憶や経験から「これはイチゴの味だ」と強い先入観を作り出す。舌に触れているものが単なる砂糖水であっても、脳が認知を書き換えてしまうのだ。人間の知覚とは、実に曖昧で騙されやすい。