火災現場の近くに居合わせた際、人間の命を最も脅かすのは炎そのものではなく、人間の心理的脆弱性です。災害社会学および心理学では、突発的な危険に直面した際、人間が無意識に「正常性バイアス(自分だけは大丈夫、大したことはないと思い込む心理)」と「同調性バイアス(周囲の他人が逃げていないから、自分も平気だと同調する心理)」に支配されることが実証されています。
煙の臭いに気づいても「近所の料理の焦げ付きだろう」「工場の煙だろう」と自分に都合よく解釈し、スマートフォンで情報収集を続けているうちに、一酸化炭素が室内に充満して意識を失う――これが火災避難の遅れが生じる典型的なメカニズムです。火災時における行動判断は、曖昧な状況証拠ではなく、明確な基準に基づいて下さなければなりません。
火災遭遇時における行動分岐基準(即時避難すべき人・屋内待機すべき人)
周囲で火災が発生した際、すべての場合において外へ飛び出すことが正解とは限りません。風向きと距離、建築物の構造に応じた冷徹な判断が必要です。
【即時避難を完了すべき条件】
第一に、火元から「風下」に位置し、直線距離で200〜300メートル以内の木造密集地にいる場合です。播磨地域特有の季節風や海風は強く、火の粉が屋根を飛び越えて飛散するため、炎が直接見えなくてもすでに退路が塞がれつつある可能性があります。第二に、異臭(刺激臭・プラスチックの焦げた臭い)が室内まで侵入してきている場合です。一酸化炭素やシアン化水素などの有毒ガスは数回の吸引で運動機能を奪うため、スマホの検索を直ちに中断し、濡れたタオルや衣服で口と鼻を覆い、姿勢を低くして風上または風横方向へ直ちに退避しなければなりません。
【室内密閉・待機を維持すべき条件】
一方、火元から風横または風上に位置し、気密性の高いSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)マンションの開口部と逆側にいる場合は、慌てて屋外に出ることでかえって階段室や廊下に充満した煙を吸い込むリスクがあります。窓と換気口を完全に閉鎖し、エアコンの給気を停止した上で、自治体からの「避難指示」の発令状況を注視する待機行動が合理的となります。